千の風になって

「えっ！いつ覚えたの？！」って、ままがパパに聞くと、「だって暮れの紅白歌合戦で唄って
いただろう？たぶんこんな感じかなって唄ってみただけだよ。」
パパは平気でそんなことを言ってままを驚かせたらしいよ。
パパって好きな歌は大抵1.2.度で覚えちゃうらしいんだよね。
多分その後もラジオかテレビで唄っているのを聞いたのだろうか？
ままは、首をかしげながらも「すごーい！」って、パパを褒めまくった。
パパもまんざらでもなさそうだったとさ。

「千の風になって」・・・
二番目のお姉ちゃんも、今頃は千の風になって、この大きな空を吹きわたっているのだろうか。
世界を飛び回っているのだろうか。

私のお墓の前で泣かないでください。
そこには私はいません
眠ってなんかいません
死んでなんかいません・・・

そして、いよいよ僕のお気に入りになった、この写真だよ。
大きなトランクの中には分厚い本が立てかけてあった。
そして、僕はその中に入るように言われた。
あーっ、ままが大好きなご本があるよー
でも、これってちょっと小さくない？厚みもあるし、。。僕は入れるかなあ？
ひょいっ！大丈夫だった、良かったあ～♪
次に、トランクに手をかけるように言われた。
そーっとかけてみた。
なるほどねえー・・・うん？そばにきれいなお花も置かれたよ。
「あらっ！ハッピちゃん、可愛い～♪　ハッピーポッターだあー！♪」
見ていた皆が口を揃えて言っているのが僕の耳に入ってきた。
うん？僕って今注目されてるの？

平成１９年5月16日の水曜日。

今日は二番目のお姉ちゃんの祥月命日だから、ままはお休みを取った。
お姉ちゃんが小さい頃からままは働いているからね、お姉ちゃんが天国に行ってからなんて、
遅すぎるけれど、でもせめて・・・という気持ちで、ままはその日はお家にいることにしている。
お姉ちゃんが大好きな、といってもお肉やお魚はご仏前にはお供えできないから、お野菜や
果物を主としたお供え物をする。
お盆やお正月にもするように、5品のお料理をお膳に乗せてお供えする。
可愛い塗り物のまるで、おままごとのようなお椀やお皿だ。
ごはんや汁物もほんの少しだ。
だから、一つ一つを小さく切ってお料理をする。
ままは、朝早くからお買い物に行って、すぐにお料理をし始めた。
中には故人が好きなものをあげるといいのよという方もいるけれど、ままはやはり昔ながらに、お肉やお魚は
極力避けているようだ。
一時、「そうよね、大好きなものをなんであげちゃいけないのかしら？」って、お供えしたことがあるけれど、
最近はいわゆる精進料理に徹している。
なんでかな？腐りやすいからかな？
僕も不思議でしかたない。
でも、昔からのそういうならわしというものは、それなりの理由がきっと、ちゃんとあるんだろうな。

のんびりとままとのどかな道をお散歩をしていると、僕はとってもしあわせな気分になってくる。
ままもそのようだ。
最近ままのお散歩の歌が復活してきたよ。
「ハッピーハッピーハピピのピ～♪」って、そばに誰もいない時は、大きな声を出して
歌っている。
まま、恥ずかしいよ～　そんなに大声出さないでよー　って、僕はままの顔をちらーっと見るけれど、
そんなことはお構いなしにままは歌っている。
余程ままは「野太くなった声」が気になるのだろうか。
あの事件以来、ままはパパと一緒に月に1度か2度の割合でカラオケに行っている。
だからって、声の調子が元に戻ったかというと、それは限りなくブルーだけれどね。（笑）
でも、お歌を唄ってくれるようになったことは喜ばしいことだと思うよ。
歌って、なんだか歌うのもよし、その歌を聴くのもよしで、いいことづくめなんだもの。
気分がね、こお～う上向きになるんだよね。

僕の歩きもリズムに合わせて、軽快になる。
ままは、毎日残業で忙しいんだから、こうしてたまには時間を忘れてぼーっとしている時間も必要だと
僕は思うけどな。
ままはぼーっとしていると、お姉ちゃんのことをすぐ思い出すらしいからな。
でもね、今日は、特別祥月命日なんだから、そうして思い出すのも仕方ないよね。
ままが暗くならないように、僕は思いっきり笑顔でままのことをしょっちゅう見たんだ。
ままも、最近では辛かったことよりも楽しかったことを思い出すようになったみたいだから、
少しだけ僕も安心だ。

そうだ、カラオケといえば、こないだパパとままがカラオケに行った時のお話だよ。
突然パパが「千の風になって」を歌い出したそうだ。
ままはもうびっくりさ。
だって、パパがその歌を唄っているのを今まで一度も聞いたことがなかったからだよ。
なのに、パパはすんなりと、朗々と唄っているではないか！